23  妻の再入院

 病人の看護も長くなると正直云って疲れる。家事一切だからなおさら。

 私には食事の献立を考えるのが相変わらず億劫です。
 じゃまくさいとき、自分一人ならいつでも外食出来るのですが、

 病気で動けない妻が家で待ってると思うと…。 二人揃っての外食は当然ムリだし。
 たまには店屋物で手間を省くことも。
 でも毎日と云うわけには行かないので材料買ってきてコトコトが日課。

 納得していても空腹で帰宅したときは悲惨。食事支度の時間が長く感じること、
 お腹の虫がグー。そんなとき病人には悪いけど一人だったら
 外食して帰れたのにって つい思う。

 たまたまこのたび 妻は虫歯治療のため入院することになった。
 さー思い切って羽根がのばせる。まさにチャンス到来とばかり内心喜んだ。 ‐裏切り‐
 入院させた第一日目の夜は早速外食した。

 二日目は、入院する前に買っていた材料が残っていたので自炊。
 量はいつの間にか二人分作ってた。

 いただきまーす 箸を採ろうとしたとき 何故か鼻の奥がツーン
 やるとはなしに見やった目には、空のベッドに白いシーツが寒さげに映っている。
 「健二さんっ」の呼び声も飛んで来ない。
 そう、泰子病院では今頃食事終わって一人寂しがっているだろうなー
 って食事の支度中ずーっと考えていたものだから。

 当分独り身、ゆっくり出来るんだ、の思いとは裏腹に。
 ツーンと来たのは… それが人間なんだ。 

 孫、来るなり真っ先に病室の襖を開け、突立ったまま空のベッドをじーっと見ている。
 何もいわないそして 今日も。

 一ヶ月あまりの入院でしたが、やはり家に居てくれるほうが落ち着きます。

 歯の治療
 寝たっきりになるとどうしても歯磨きが不十分になり、いつしか虫歯に…。

 歯の痛みを激しく訴えたのでとりあえず昔からお世話になっていた歯医者さんに
 痛みどめのため往診してもらいました。抜歯や治療は機材の運搬が出来ないので 入院です。

 泰子の場合 幼い子どもとおんなじで、
 自分から口を開けないし、どうにか開けさせた口でもそのままじっとしていません。
 往診のときは開けさせた口を塞がないようにガーゼを巻き付けた箸を入れて支えました。

 病院では、私がその説明をするまもなく、なんにもご存じない先生 
 指を入れて開けさせた口を支えようとしたところその指をガブリと噛みました。
 指にはくっきり歯形 そのあと先生、痛みをこらえての治療 お気の毒でした。

 何本かを抜歯して麻酔が醒めたあと、
 妻は先生の指に噛みついたことも抜歯したことも全く覚えていません。

24  妻の再入院

 皇太子と大和田雅子さんの2人がめでたく結ばれる事になった。

 主権在民はわかっているけど、象徴である天皇家のおめでたとして、素直に祝福したいですね。
 6年の空白を乗り越えての本望成就。2人並んでの記者会見。率直でほほえましい。

 
 我が妻になる人を
 「一生全力で守る」と、
 人前でも堂々と言い切るあたり、皇太子の肩書を通してではなく一人の人間としても
 立派だと思う。

 多くの人達もテレビをみながら自分達のときを思い出したのではないでしょうか。

 私達、始めて会ったときから5年の空白があって結ばれました。

 プロポーズの言葉、その場所、初めてのくちずけ。
 雨の中を一本の傘でいつまでも歩いた結婚前のこと。
 生活は苦しかったけど楽しいこともいっぱいあった新婚当時。
 結婚して何年か経った頃、道路も満足にない西浦町に自分達の家を初めて建てて
 移り住んだこと。
 子どもが出来たときの喜び。

 
 わかるかなと思いながら話かけたら、
 嬉しそうに 時には恥ずかしそうにまた真剣な顔も交えて、
 一つ一つにうなずき返して来ました。覚えているんです。

 彼女の病気、自発能力が欠けているので、
 自分から話かけるとか、何かを求めるとかが殆どない。
 会話はいつも一方的。促すと断片的には出てくるが、殆ど憶えていない。 
 そして今のことは右から左に消えて行く。記憶力が著しく衰退している症状です。

 毎日みている二人の孫なのに 
 「チャコちゃんが産んだの?」
 「だから泰子は おばあちゃん」
 「私 おばあちゃん違う」
 いまだに云い続けている。

 私にとっては どんな状態であろうと愛しい妻 
 皇太子が人前で言い切ったように「一生全力で守る」ため

  晩ご飯の支度にかかろう